だいたい四国八十八ヶ所 (集英社文庫)

これまで何冊かのお遍路関連の紀行本を読んだが、その中で現代におけるお遍路の雰囲気をよく伝えているという点では一番ではないかと思う。車谷の『四国八十八ケ所感情巡礼』は毒が強いし、辰濃和男『四国遍路』は詩情豊かではあるが、きれいすぎてどことなく現実離れしている感もあった。それらと比べると本書は地に足がついているというか、はらはらドキドキの冒険譚もなく、涙がほろりとするような感動する逸話もなく、三年間、都合八回にわたる細切れなつなぎ遍路というせいもあるのかもしれないが、お遍路お遍路というけれど実際行ってみたらこんな感じだったよ、みたいなまるで週末の小旅行のようである。けれどもそれは決して本書のマイナス面ではなく、平成の今の世の中における遍路の実態と言うか、四国巡礼をする人たち、特に歩き遍路の人たちの生の姿を描くのにプラスに作用しているように思う。何番から何番まで、おれは何日で歩いたとか、あそこの登りは何時間で登ったとか、年配の歩き遍路にはそんな自慢をする人が多いそうだ。まるで何かと競争しているかように。交通量の多い国道ばかりを歩かされる場面には、正直、いつかは四国巡礼を、と思っていた気持ちがぐらついた。生まれも育ちも関東のわたしにとっては四国はなかば外国のようなものでお遍路についても幻想のようなものを抱いていたが、本書でずいぶん現実を教えてもらったような気がする。