鉱物の人類史

サリーム・Ｈ・アリ著『鉱物の人類史』この本は理系と文系を混合した書物だった。印象を惹いたのは、１これからは石材が建築に使われる可能性大。「石材や木材から金属に移行したことで人間社会が向上したが、石材のタフさを軽視してはいけない。アラン・ワイズマンは「人間のいない世界」という作品で現代文明の崩壊を描いたが、その中で「石材を用いた建造物は新しいコンクリートや鉄鋼をしのぐ性能を持つ」と指摘。石材と難分解プラスチックを併用した構造物はこれから普及が進むだろう。」と。２鉱床が見つかって、利用して富む国と無関心な国があること「アフリカのボツワナは、１９６６年、イギリスから独立。その一年後、ダイヤモンドの鉱床が見つかる。国庫に入る金額は十倍になった。ダイヤモンドが取れる以前は、アフリカ最貧国だったが、今やアフリカでは最富裕国となった。一人当たりの収入が１４００ドル以上というのはアフリカ最高の数字だ。ダイヤモンドのロイヤルティーで、小学校から博士課程までタダ。識字率は八割を超える。ボツワナに限らず、一般的に、公的の承認された大きな鉱山会社を持つ国は、国連の提唱する「人間の開発指標」で高い数字を示している」という。３古代、鉱山で見つかる鉱床は宗教的儀礼や芸術表現のよりどころだった「琥珀は古代ギリシャから美しさで讃えられたが、紀元前６００年に、哲学者のターレスが、闇の中で、琥珀を布で磨くと、静電気による火花が飛ぶことを発見稲妻以外で人類が観察した電気学的現象であった。電気のelectricityは、琥珀を意味するギリシャ語elektonに起源がある。エリザベス一世の侍医のギルバートが、この言葉を作った。古代人が静電気を見て感じたのは、癒しの力だった。装飾品としてだけでなく癒してくれる物としての需要が出たので、琥珀は何世紀も大規模に採掘された」とある。おそらく、古代人は琥珀から見た光は神にみえたのではないかと思う。最初の鉱山は、物質調達というより、宗教儀式や芸術表現など文化面で必要とされた。人類学者のシリル・スタンリー・スミスは、金属や鉱物の使い方が多様化した理由を、有用性ではなく、装飾性に求め、「必要性ではなく美を追い求める心が創造の源である」と述べる。４クジラはアメリカが重視した脂だったが、今の日本を批判するのは如何なものか「皮肉な事に、アメリカにおけるエネルギー消費のあり方を変えた油脂は、海洋に起源のあるクジラの脂だった。昔から、捕鯨は世界中で行われた。ヴァイキングもアポリジニも、何千年も前から、クジラを獲ってきた。しかし、マッコウクジラの頭蓋骨や他のクジラの脂身から取り出した油脂の利用は、十七世紀からだった。照明用の鯨油は高価なので、仕えるのはエリート層、または、灯台の公の照明設備のみだった。十九世紀に、需要が増大し、クジラの数は急激に減った。それゆえに、第二次世界大戦後、１９４６年、国際捕鯨取り締まり条約ができた」と。ほんの昔までは、クジラの油で光をつくり、仕える人は上流階級だった。僕は、その事を考えると、現代人はあまりにも、身近な電気を空気のように使うが、怖ろしく贅沢品を使えるようになったと思う。当たり前の事をもっと、見なしてみると、昔の王侯階級より何段も上の生活を送っているのである。不幸かな、現代人は刺激が多すぎて、全くその事を考えるに及ばず、死に向かって生活しているのではないか。５将来、鉱物が枯渇して、人類は滅びるのか「現代では、飛行機からジュース缶、コンピューターのカバーまで、アルミが大量に使われている。すると、氷晶石が欠乏したとなると、警戒警報となるはずだ。しかし、騒動は起きなかった。氷晶石が枯渇したと知る人はグリーンランドの外ではわずかだった。なぜ、注目されなかったのか。結晶が人工合成できたからである。楽観的な人々は、石油、ガス、石炭などが枯渇しても、化学反応で道が開けるという。彼らが引き合いに出すのは、エネルギーは作り出せないし、破壊も出来ないという熱力学第一法則だ。エネルギー枯渇理論は物理学の法則に反する。環境保全にこだわる人はを怠け者と呼ばれ、「彼らの主張は責任回避だ。技術進歩こそ決定的な処方箋になる」と。僕は、まだまだ、化学反応に期待する。環境保全はいかがわしいと思っている。６お茶は脳を活性化させるのか「お茶の木から７００近い化学物質が分離されている。その一種がポリフェノールで、大脳に達すると、神経の一部がドーパミンを出し、前頭前皮質を刺激。この有機物質は脳の他の部分も刺激して、快感や野心をかきたてる。ドーパミンは人間の創造力や欲求を支配する化学物質だった。ドーパミンは快感を司る摂受体の神経を刺激して、シナプスに到達すると、はＧＡＢＡなど他の脳内物質が働いて、興奮を鎮める。神経細胞であるニューロンをつなぐシナプスは脳の回路から出た信号を増幅する。喫茶によって放出されるドーパミンは適量であれば、ＧＡＢＡの働きを邪魔しない。お茶は無害、むしろ有益だ、というのが大方の見方である」と。お茶は世界的に健康食品となりつつある。お茶以外にも、日本食は最優食品になるのではないか。先祖の偉大さに感謝。７アメリカのウイルソン大統領の意志が現代の世界グローバリズムに置き換わっただけとは「ウイルソン大統領は、１９１６年に世界セールスマン会議で、有名なスピーチを行った。購買力が羅権を支える要素となる。アメリカの民主的ビジネスが世界を平和裏に治める動きの中で主流になると。彼が重視するのは、生産国の嗜好を市場国に強いることだった。また、彼は、障壁の差となるのは、原理原則ではなく、嗜好の差だ、と。だから、嗜好を均一化すれば、主要な競争相手は排除できるし、アメリカに合わせるように彼らを改造するトーマス・フリードマンは「紛争防止の黄金アーチ理論」で、マクドナルドがある国はファーストフードを通じて文化や個性を均一化できるので、お互いが紛争を起こす可能性は低いというが」今、流行りのグローバリズムの走りはどうやら、ウイルソンのようだ。世界の人々の好みを画一化させる。アメリカの支配にいることをためらう事なく暮らすが、日本の良さが昨今、寂れ忘れ去られようとしつつある。反抗して、日本の伝統をもっともっと復活させるべきではないか。８衝動買いはやめられない？「ノーベル経済学賞受賞のゲーリー・ベッカーは、買い物中毒は誰でも起きうるという。行動経済学に基づいて、「買い物を控えめにしても、人々は合理的に中毒になる。なぜなら、時間の経過とともに製品の価値や魅力が減るからだ」と書いている。アメリカ人の５パーセントが要治療の買い物中毒、０・７パーセントがギャンブル中毒。所有欲と嗜好は、人間に共通している。行動経済学は人間の過ちから学ばないばかりか、非理性的な行動様式を、繰り返すと指摘する」僕も、なぜか、不必要な物を買ってしまう。よく、考えると、この「古い」と言われることが嫌だから、とわかった。新製品がいいもので、年代物は悪いというイメージが知らないうちに身についている。普段のコマーシャルや宣伝の力にいかに影響されているか、怖ろしく感じた。９目に見える製品は責任は問われるが、胃に入った食品の責任は誰が取れるのか。「産業エコロジーの考えでは、製造責任者が消えるのは、投入されたシステムの中だ製品が完全に形を変えた時だ。食品は体内に入った時点で、製造者の責任が消える。しかし、消化されないで使用後も責任の所在が問われるのが鉄やプラスチック製品である。古くなって製造者責任が残る車やコンピューター、コピー機は、最近、製造者が使用後、回収して、再利用したり、処分するようになった」と。１０資源で稼いだ人は世界に貢献している人が多い「資源、特に石油で財をなした人は、進んで社会奉仕をしている。無一文から身を起こした人は、持たざる者に分け与えることを、自らの義務としている。資源から得られる富は、不平等が生じる。能力差として簡単に片づけられない。資源で巨利を得た人々は、分け与えようという良心がうずくようだ。ロックフェラーが巨万の富を得たのは当時、独占禁止法がなかったからだ。教育中心に活動起こしたし、１８８４年にアフリカ系のアメリカ人女性を対象にスペルマンカレッジを創設した。黄熱病のワクチン開発も、ロックフェラー財団の研究成果だった」アメリカ人は大物がいることも確かだ。日本人はこじんまりしている。この社会奉仕という精神はまだまだ、アメリカ人に見習うべきだ。